atoaゆるゆるぶろぐ





スポンサーサイト :: --/--/--(--)

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. スポンサー広告

【お話】百星撩乱(ひゃくせいりょうらん)第26話、第35話、第77話 :: 2011/07/04(Mon)

【お話】百星撩乱(ひゃくせいりょうらん)

時折浮かんでくる様々なイメージをお話にしています。
100このお話です。
稲垣足穂のお話からインスピレーションを得たことを、
くれぐれも記載しておかねばなりますまい。

♪今回は第26話、第35話、第77話をup
-*-*-*--*-*-*-*-*-*--*-*-*--*-*-*--*-*-*-


26話 ツェラ

 一瞬のことでした。
ベーシストは手にしていたピックをテーブルの上でボキリと折りました。
いやな空気でした。
しかし信念をここで曲げてはと思い、彼は折れる事を選びませんでした。
ベーシストは一度髪をギュゥとかきあげましたが、
それ以上何もせず、他にこれといった頑さもなしに
口を閉ざして仲間を一瞥し、その場を後にしました。
メンバーは互いに視線を見交わし、困惑の色を混ぜあいましたが
結局誰も一言も言葉を発さないまま、その日の練習は終わりとなりました。
 ベーシストはスタジオを出て控え室に入り、
歩きながら持物を帆布のバッグに放り込んでいきました。
いつかから変わらぬ細い肩にいつものベースをかけ、
その重さで自分の完全を確かめ、夜に足を踏み出します。

街はいつもよりずいぶん暗い様子で、しかも風まで吹いており、
彼の長い髪をさらさらとなびかせます。
彼の母親は息子のこの黒髪をよく自慢したものでした。

 肉付きのよい太ももをあらわに、ミニの裾をひらひらさせた女のコが
安物っぽいチョコバニラのアイスバーを食べていました。
どうも食べ方が下手で、口の回りにクリームがはみだし
フリルのついた服にチョコが落ちています。
女のコがベーシストを見ました。
まっすぐに、アイスを口にしたまま、黒目がちの大きな目をして、彼を見ました。
(あるいはテクニックの駆使の結果の大きな目をして)
ベーシストは躊躇なく視線を外し、さっと彼女の傍らを通り過ぎました。
彼にとって女のコという生物は、皆目興味無き対象、
関わりに時間を割くことは大いなる無駄、というわけです。

ベーシストは随分背の高い人でした。
上下黒い服を着ていて、髪も長いし、全身から何というか、
異様な様相を放つような風貌です。
だので、だいたい街を歩くと通りすがりの人からじろじろと見られるのでした。
今日も同じでした。
それもまた彼の日常、彼にとって何の感心も慢心もおこさない一コマです。

彼の細長い髪が夜の街の風に吹かれて心持ち後ろになびきました。
きれいな髪の細い毛先が、何か文字を綴ったように見えました。


-*-*-*--*-*-*-*-*-*--*-*-*--*-*-*--*-*-*-


35話 キュオ

彼女はチョコバニラのアイスバーの棒を道ばたに捨てました。
そもそも食べたかったわけでもないのに、
通りがかりの「おじさん」から手に握らされたものでした。
あぶらっこい手でアイスバーを握らされた時、
チョコレートが彼女の服にぺとりとつきました。
「あ」おじさんはすぐにそれに気付きましたが、
そんなこと起こらなかったかのように、もう一度彼女の手をぎゅっと握って
「食べなよね」と言い、そそくさと夜の街の何処へかへ消えたのでした。
彼女はおいしくもないアイスバーをとりあえず全部食べてやって
「おじさん」へのフクシュウを果たしました。

食べながら道行く人たちの顔を眺め、
その人々が何を考えているのか、読み取る練習をしていましたが、
6人目でもういいか、と面倒になりました。
彼女の居る傍に花売りのスタンドがありました。
色とりどりの花が、ひときわ暗い夜の中、
ライトの光を浴びて発光体のように輝いています。

 花の中に真っ白な八重菊が売られていました。
彼女はその花を見た瞬間、”吸い込まれる”、思いました。
ふと我に返り、無理矢理菊から目を逸らしましたが、
どうしてだか「見たい」という思いに抗えず、もう一度目を落としました。
花弁はパールのように光沢があって優しく、やわらかでした。

彼女は素早く辺りを見回しました。
往来にはたくさんの人たちが行き来してましたが、
誰も彼女に気がついていなさそうです。
花屋の売り子も一組のお客さんの対応に熱心で、彼女の方なんて見ていません。

彼女は空を仰ぎ、十(とお)ほど、“やりのこしたリスト”を考えました。
そして出来たリストを鳥にして逃がしてやりました。
今度は、やわらかな菊にゆっくりと視線を落とし逸らさないまま、
口をそっと開きました。
「キュオによろしく」
誰かに、浮遊する空気に含まれる誰かにそう伝言をし、
彼女は雑踏の中に生じた静寂の中、花の中にずいずい、と呑み込まれていきました。


-*-*-*--*-*-*-*-*-*--*-*-*--*-*-*--*-*-*-


77話 マーブル

 その人はいつものように無心で苗を植えていました。
朝霧の中、いつもの仲間がいつもの表情で同じ作業を
一定の間隔を置いて行っています。
霧が強く、隣の人間の表情はちっとも見えません。
その人はそのことで内心ほっとしています。
独りになれていい、と思っています。

「これからずっと、くたくたになるまで、
この作業、このあたりにしか咲かない
白い菊の苗を植え続け、育て、
何年かに一度は必ず雨風に倒され途方に暮れ、
やっとのことで咲いた花も体よく買いたたかれて、
ようようその季節を終えるんだろう。
それを 身体が動かなくなるまで 繰り返す。
年をとって、父のように黙って火の傍に座り、
強いお酒かお茶をすすってそのうち居眠りでもするんだろう。
自分もそうなるのだ、知っているんだ」

その人は諦めというものをずいぶん早いうちから知った人でした。
そうすることで辛い人生を少しはまともなそれに移し替えるふりができる、
と取引したのでした。
きれいな目をした人です。
あまり人から顔を見られるのを好まず、
人から顔をのぞき込まれたりしようものなら、消え入りそうになるのでした。

その日もいつもと同じ作業でした。
ここ数週間ほどはいつもの季節よりずっと気温が低く、
皆がいやな予感を感じていました。
「今年の夏は冷害になるだろう」と誰かが低い声で言いました。
それを聞いた彼はぎゅっと目を閉じ、手にした苗を土に強くねじ込みました。
ぼそぼそと話し続ける不愉快な声を遮るように、
自分の好きな歌をお経のようにぶつぶつと口で唱えました。
この歌で今の言葉を打ち消してしまいたい、と思いました。

 あまりにも無心に歌を唱えることに集中していたので、
その人は自分の名を呼びかけられているのに気がつきませんでした。
やっと顔を上げた頃には、辺りの仲間たちは全員立ち上がって空を仰いでいました。
薄灰色の雲に覆われた、冷たく白いばかりのいつもの太陽の周りに
幾重もの光の輪がかかっていました。
しばらく見ているとその光の輪はじわじわと幅を広げ、
いつもは白々しい太陽さえ明るさと大きさを増してきはじめていました。
彼は少し混乱し、目眩を覚えました。
隣で「わぁっ」という、驚きとも恐怖ともつかない声が上がりました。
その人も、それが何であるのかすぐに気がつきました。
植えていた菊の苗全部に真っ白い大輪の八重菊が咲いていたのです。
そこかしこの苗全て、まるで白無垢のような輝きでした。
その人は膝をつき、再び天を仰ぎました。
そして右手を土の上にそっと置きました。
光の輪は増々大きく、その人や仲間たち、その土地全体を照らしました。

その人は天から真っ白な八重菊が無数に降ってくるのを見ました。
いくつもの、数えきれないくらいの菊たちが、
くるくるとかえでの実のように回り、
歌を歌いながら降りてくるのが見えたのです。
とめどなく涙が出て目を塞ぐので、
降ってくる光はゆらゆら瞬く水面のようでした。

彼は天上の奏でる音楽を聞きました。
土に膝をついたまま、じっと静かに耳を澄まし、
いつかどこかで聴いたこの歌を
彼と、彼の父と、そのまた父に向け、しっかり届けと願いながら
いつまでも聴きました。
白い菊の花たちはぽとぽとという音をたてて、
彼の周りにやわらかく降り積もっていきました。

スポンサーサイト
  1. 制作・作品
  2. | trackback:0
  3. | comment:0
<<お久しぶりです^^ | top | 【お話】百星撩乱(ひゃくせいりょうらん)第69話、第2話>>


comment

comment


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://atoa45.blog52.fc2.com/tb.php/104-772821f4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。