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【お話】百星撩乱(ひゃくせいりょうらん) :: 2012/01/08(Sun)

時折浮かんでくる様々なイメージをお話にしています。
100このお話です。
稲垣足穂のお話からインスピレーションを得たことを、
くれぐれも記載しておかねばなりますまい。

♪今回は第9話、第18話をup
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9話 やわらかな革製の手縫いの旅鞄


 「世界一もどかしがりやで情にあつくって負けず嫌いだけど
涙もろい鞄といったら私のことをおいてほかないわ」
鞄は少し興奮気味にそう語りました。
工具達は仕事終わりでもうすっかり気を抜いていて、
鞄の言うことを聞いている風にしつつもその実、
自分達のその日のできっぷりばかりをうっとり反芻しているようでした。

「涙もろい、といったって実際に涙を流す訳にはいかないけれどね。
鞄たる自分の役割がなにかってことくらいはちゃんとわきまえてるもの」
鞄のスピーチは続きます。

「できれば女のご主人がいいわ。
ちょっと人見知りで、大切な時にへどもどするのだけど
根がやさしくて歌が好きなひと」
そう言うと、鞄はすこしの間だまりました。
何かをじいっと模索するかのように考え込み、そわそわし、
それから口を開きました。

「私、ご主人の涙だってうけとめることができると思うわ。
だってこんなに丈夫に作ってもらったんだし。
それでいて触った時にほっとするやわらかさだって持ち合わせているもの。
人生は旅だというくらいだから、それに伴ういろんな想いも鞄が運ぶってことよ」
一気に言い終わると、鞄はやや緊張した面持ちになりました。

「つとまるかしら。私につとまるかしら」

工房のねじまき時計が深夜の鐘をチン、チン、と知らせました。

工具達はもうすっかりいびきをかいていて、
誰も鞄の話を聞いていません。
ただ一度、ねぼけ顔のとんかちがおかしな夢でも見たのか
笑い顔の仮面のような顔をして
「いいぞいいぞ」
とはやし立てました。

鞄はとんかちには耳も貸さず、
自分自身をしゃん、として
しずかに深く自分の気持ちを地面におろしていきました。

「明日私はまちのお店に行くのよ。すべてはそこからだわ。
今あれこれ考えたってどうこうなるものでもないもの。
きっとうまく行く。そんな予感がするのよ」

鞄はそう言ったっきり静かになりました。
もう一言も話すことはありませんでした。

丁寧に縫われた縫い目や、すべすべになめされた表面、
運びやすいようやわらかにカーブした持ち手も
いかにもよい品物だと証明するかのように非の打ち所がありません。
新品の金具は外からの街灯の明かりに照らされてぴかぴかと光り、
どこから見ても実に美しい鞄なのでした。

この鞄の未来のご主人は、今頃すやすや眠っている時間でしょうか。
これから旅を共にするお互いのことを、あるいは夢に見ているかもしれません。


ねじまき時計のコチコチという音ばかりが、この夜の時をひとつひとつ刻んでいきます。




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18話 ○々荘、りんごパイ会議ときくらげやさん



「なつかしぃ感じだなぁ、こういう雰囲気いいよねぇ」
そこを訪れる人々は口々にそう言います。
「先の時代の空気と言おうか」
いくつだかわからない男性がそういってうむ、と頷きました。

○々荘には一坪くらいのスペースのきくらげやさんがあります。
きまじめな顔をしたきまじめなひとが質の良いきくらげだけを売る店です。
普段あまり動くことのないきくらげやさんですが、
今日はすこしばかり目をしばつかせながら使い古して
クタクタ柔らかくなった麻布で眼鏡を拭いています。

スパイスの効いたカレー屋さんやおかしやさん、
寄せ植えなどを売りつつ頼めば何でもやってくれる植物やさん、
なにやか全く不明なアーチィなお店など、○々荘にはいろいろ入っています。

ピンクの篭の付いた自転車に乗った女の子が、ギギーっとブレーキの音を軋ませ、
ぴょんとポニーテールをふりながら元気よく中に入っていきました。

この○々荘ではきまぐれにりんごパイ会議とやらが開かれているそうで、
なんでもロシアンルーレットで当たった人の焼いたりんごパイを皆でほおばりつつ、
ぐだぐだととりとめのない夢の話や幻の話を語るのだそうです。


「そういうのっていいよね」
カレーを食べにきた女の子達が話しています。

カレーやさんの女主人は
「今日はもうお客さん来なくていいわ」
などといいながら手際よくスパイスを焦がしにかかりました。
昨日少しばかり熱がでたからみたいです。


ポニーテールの子は
「自転車の後ろに木箱を取り付けてほしいんです」
散策から帰ってきた植物やさんに伝えた後、
「その木箱にお野菜いれたくて」
と付け加え、
ひらりと自転車にまたがり鼻歌を歌いつつ通りを帰っていきました。


きくらげやさんはまたいつものごとく、
古びた油絵の具の肖像画のようにぴくりとも動いていません。

スパイスのよい香りがお店の外に流れ出し始めた頃、
カレー屋さんを新しいお客さんがのぞきました。
「変な時間だけど、いいですか?」
女主人は
「ええどうぞどうぞ!」とエプロンで手を拭きながらはきはきと出迎えました。


カレー屋さんのお手洗い近くに置いてあるホヤ・カーリーのハートの芽が
ぴぃぴぃと四、五センチほどのびてきており、
そのとったんで背伸びしいしい、新しい空気を作り出しています。


今日の空はおおらかなみず色をしていて、
見上げると
まるでハートの芽に顔をそっと寄せた時感じる微細な空気の変化のように
とりまく風のようななにかが、辺りと違って流れるのでした。
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