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れすとらん 『バル難破船』のちいさなお話 :: 2010/09/13(Mon)

スペイン料理『バル難破船』は薬院ボンラパス近くに、
おや、ここはなんだい?といった風体で存在します。

バル難破船


お昼はやっておらず、夜だけ嵐の大海原に漕ぎ出すようです。
先日atoaふたりでごはんを食べにゆきました。
サングリアに溶けている色々なフルーツの香りを楽しみつつ、
オリーブオイルに泳ぐキノコをつつき
味の深い生ハムとお野菜を一緒にたべながら
楽しくぺらぺらおしゃべりをしていたら
日ごろの、いつの間にか降りつもるほこりが
ぱぱっ☆ さらさら~っ
と浄化されていきました。
よい夜でした。

おいしかったなぁ、楽しかったなぁ、と思っていたら
『バル難破船』にまつわるこんなお話を妄想しました。
よければ読んでやってください。


aya


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『バル難破船』のちいさなお話


ある9月の夕方過ぎ、「ゲリラ豪雨」が街を襲いました。
彼はあと一件営業先を回ってから帰ろうと思っていたのですが、
傘も持っていないのにあんまり雨がひどいし、
その日は何一つ良いことが起こらなかった上にこの仕打ちか、
などと思うとすっかりやる気も失せてしまいました。
数少ない一張羅のスーツをびしゃびしゃ濡らす、止む様子のない雨に
すっかりふてくされ、半ばやけくそで彼はそのお店に入りました。

薬院付近は昼間仕事中によく通っていましたが、
そのお店のことは長らく気がつきませんでした。
気付いた後も、この店潰れてるのかな?と思っていたくらい
昼間のその場所はしん、と沈黙していたのです。

「難破どころか沈没してるんじゃないのか?」

などと辛らつなジョークでひとりつっこみをしつつ
店の前を通り過ぎていた彼でしたが、
急な大雨に打たれて途方にくれ、
行き着く先をあてどなく探すその日の彼こそ
さながら難破船のようでした。

「客がおれだけだったらどうしようかな」

と、ドアを開けながらちらりと不安が過りましたが、
予想に反してお店の中は人でいっぱいでした。

「あれ、結構人気なんだ。ここ。」

彼は心の中でこっそり詫びをいれました。
外では雷が激しく鳴り、近くに落ちたような感じで
強く轟音がとどろき、船内のような店の内装をガタガタ震わせました。
きっと外では大波がこの船を飲み込む勢いでしぶきをあげているはずです。

「予約なしですか? えぇと、カウンターでもよろしいですか?」

ロマンスグレーの髪をふわりと身だしなみよく分け、
鼻めがねをしたマスターが彼に話しかけました。

「あぁ、大丈夫です」

彼が通されたのはカウンターの隅から2番目の席でした。
そこが唯一空いている席だったのです。
右隣には明らかに香水を振りすぎた
4、50代とおぼしき広告業界風の男性が
スペインワインについてうんちくを語っており、
そして左隣には一人で、
ほおずえをつきながら爪楊枝のような串で
何かをつついて食べようとしている女のこがいました。
彼女がつついているものと、彼女のことも気になった彼は
濡れたスーツのジャケットを拭く振りをして
ちらちらと彼女と彼女が串でつついているものを観察しました。

「キノコですよ。マッシュルーム。」

女のコが唐突に言いました。

「えっ、あぁあそうなんですね」

不意を突かれて彼は狼狽し、汗がどっと吹き出る気がしました。

「ほおずえついて食べるなんてお行儀が悪いけど、
この料理だけはそうやって食べるの。
おいしいからあなたもどうぞ。」

と、串の入った筒を「とん」と彼の前に差し出しました。
初対面なのによくしゃべるというかオープン過ぎると言うか・・・
まだ混乱したまま彼は言われるがまま筒から串を一本とりだし
マッシュルームを口に入れました。

「あ、うまい」

とろりとしたガーリック風味のオリーブオイルがマッシュルームに絡んで、
彼の脳のおいしいスイッチをピコンと押しました。

「ふふ、そうでしょ。エビの土鍋焼きも捨てがたいけどね。
あとね、フランスパンも外しちゃだめよ」

と自分のパンの皿を押しやってきます。

「ありがとう。」

そうやって彼女は自分の料理を彼に勧めると、
あとは次々としゃべりたいだけしゃべり始め
結局2人は一緒に食べることにしました。

飲み物はサングリアで、
ここの生ハムは外せない。
ムール貝もいいね、わたし貝好きなの。
でも鴨胸肉のソテーバルサミコとフルーツのソースも
絶対!おいしいに違いないと思うな。

終始彼女のペースです。

けれども彼はそう悪い気もせず、
むしろ彼女の選ぶ料理に舌鼓をうちつつ、
少しずつ濡れた服が体温で乾いていくのを
楽しんでいました。
お客さんたちもめいめいの席で
あれこれとおしゃべりをし
難破船の船内で束の間、
スペインのどこかの街の一角にある
バルを楽しんでいるようでした。

ふと、彼女が黙ってカウンター前にある
生ハムの“脚”をじっと眺めました。

「どうかした?」

彼はお店の暗い照明のもとで、
彼女の少し空ろになった目を少しあわててのぞきました。

「うーん。ああやって生ハムさんが
足かせで留められてるのを見るとね、
自分が昔奴隷だったときに足かせを
はめられたのを思い出すような気がするんだ」

彼はあっけにとられて目を丸くしました。
何言ってんだ、この人。

「それでね、毎回無理だ、
わたしには食べれない、って思うんだけどね、
でも食べるとおいしいんだ。これが」

そういってぱくりと生ハムをほおばって、にこりと笑いました。

「まぁねぇ。。」

生ハムはしっかりした味で
じわじわと旨味にあふれていました。
サングリアを飲み干すと彼は彼女に尋ねました。

「なんでこの店のこと知ったの?」

彼女は横目で彼のことを見て、
そんな野暮な質問をなぜこの人はするのだろう、
といった顔をしました。

「わたし、フラメンコしてるの」

「それで?」

「だからよ。」

彼はそれ以上聞くことを諦めて食事に徹しました。

「でもね、へたなんだー。踊りが全然」

そういってちょっと頭の中で自分の踊りを回想しているようでした。

「うん、まぁあんまり上手そうじゃないね」

彼はもう言いたいことを言うことにしました。

「うー、そうなんだよ。
上手そうに見えないっていうのも大いなるハンデよね」

彼女はおおまじめにそう答えました。
その後2人共おかしくなって一緒におなかを抱えて大笑いしました。


2人でお会計を済ませて店を出る頃には
すっかり雨も上がり、外の海原は凪になっていました。
難破船は無事にどこかの港に寄港したようで
街の灯りがキラキラ濡れた街に灯っていました。
彼はそんな風に想像して、
ロマンチックな気持ちになりました。

「あー、よかった雨あがって。それじゃまた。」

そういって踊りのへたなフラメンコむすめは
さっさとどこかへ消えてしまいました。

おいおい、まぁ連絡先くらい教えてくれなくてもいいんだけど・・・
始まりも唐突、終わりも簡潔、なんだあの人。

彼はしばらくぽかんとその場に立っていましたが、
ふとさっき彼女が「イカ墨の炊き込み」を食べて
プロレスのヒール役みたいな黒いくちびるをしていたな、と
思い出して声を出して少し笑い、


あめあめふれふれ、おおあめふれ。

と口元でぼそぼそと唱えてから、
『バル難破船』を後に、帰途についたのでした。
お店のランプがぼわりと光っていました。


おしまい
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テーマ:こんな店に行ってきました - ジャンル:グルメ

  1. れすとらん
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